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No.70 Kaipa / Same 1975(Sweden)

Kapia
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北欧スウェーデンにカイパ(Kaipa)と名乗る叙情派ロック・バンドが存在し、どうやら1970年代の半ばから活動していたらしいことは、1980年代前半の輸入レコード店情報、およびマーキー誌上の情報から知られていた。
実際に自分がその音を聴いたのは、確か大学に入ってからだ。サークルの先輩から流れてきたカセットテープの中に、当時は彼らの最高傑作と言われていたサード・アルバムの『Solo』があった。
しかし何しろ、劣悪な音質のカセットテープだ。その時点では、特に彼らの本質をつかむには至らず、無感動に聞き流していた。
本格的に聴いたのは、そう、フランスの専門レーベル、ムゼアから再発されたCDが世に出回った後のことである。その時には、自分も大学を卒業し、地方でしがない企業勤めをしていた。
本当に、今更、カイパか、という気分だった。軽く聞きかじったカセットテープの印象も、まあ線の細い叙情派プログレもどきという感じだった。この手の音は聞き飽きたと思っていたが、一聴してぶっ飛ぶという衝撃力のあふれるタイプではないことを知っていた。

しかし、何気なく手に入れ、繰り返してじっくり聴く中で、じわりじわりと、静かに「ぶっ飛んだ」。決して派手なテクニックを聴かせるタイプではないが、北欧らしい透明感のあるポップなメロディーと、丹念に手の行き届いた箱庭のように構築された様式美。とにかくピュアで一途な音楽への情熱が溢れている。ああ、これがプログレの醍醐味なのだと、再認識した。
その時点ではこの直後、中心人物であるロイネ・ストルトが華麗な復活劇を遂げ、プログレ界きっての英雄として今日に至る無敵の快進撃を遂げることになるとは思いもよらない。
当初は、カイパを取り巻くスタッフが同時期のABBAとかなり重なり合うということに興味が惹かれたくらいだった。しかし、サラリーマンの平常心で聴くカイパは本当に素晴らしかったのだ。

1975年。プログレ衰退期だが、当時の音楽シーンの感覚からすれば、プログレは売れる音楽だったのかもしれない。そこで、半分はアイドル風の若い青年4人組のカイパは真っ向からのプログレ路線でメジャー・デビューが実現した。
デビュー時点では、ロイネはまだ19歳。雇われギターリストという立場から既に作曲面でもその実力を発揮している。リーダーはもちろん、ロイネより10歳近く年上で最年長でありキーボード兼リード・ヴォーカルのハンス・ルンデンだ。生粋のプログレ魂の持ち主である。
個人的には、彼の控えめなのに、少しハスキーにシャウトするヴォーカルが大好きで、彼のハスキーヴォイスこそ自分にとってカイパそのものだった。
故に音楽的にはロイネ主導で完成度を増したサードの『Solo』が高く評価されるのだが、ハンスがキーボードと作曲に専念、別のリード・ヴォーカルを迎えたために、個人的には純正カイパという気がしないのだ。

デビュー・アルバムは、ハンスのヴォーカルを思う存分、前面に出しつつ、私たち日本人が空想的に思い描く北欧のイメージを裏切らない、メルヘンチックなプログレ世界を現出している。
決してテクニックで押すわけではないが、イエスやジェネシスからの影響は露骨である。
ロイネの泣きのギターも要所で既に大活躍しているが、基本的にはハンス主導のオルガン・ロックだ。抜群の純度であり、欧州各国を見回しても比肩すべき存在は思いつかないほど、実は独創的でもある。
当時のライバル格を空想的に数え上げると、独のAnyone's Daughter、豪州のSebastian Hardie、オランダのFinch、英国のEngland辺りということになるだろうか。カイパは、そんな中で最もマイナーであり、日本のファンにとってみれば最後の大物であった。ゆえに神秘のベールに隠された伝説でもあった。
メルヘンチックな詩情の深さという観点では、今なお最高峰の存在である。