No.67 The Enid / Touch Me 1979(UK)



また昔話になるが、1980年代半ば、かつてのルネッサンスと双璧を成すクラシカル・ロックの雄として、The Enidの存在が日本のプログレ・ファンの間でクローズアップされた。
理由は至って簡単だった。
彼らがリアルタイムに活動する数少ない“生きた”プログレッシブ・ロックだったからである。
まだインディーズという言葉が世に広まる前のことだ。大手レコード会社との関わりをみずから拒絶し、自主レーベルを立ち上げ、ファンに対して直接、みずからレコードを配給するという、画期的なスタイルを選び、一切のショウビスからの圧力を絶ち、純粋なミュージシャンシップを貫いた。
The Enidは元々、他のメジャーなプログレより少し遅れて1976年にデビュー、1970年代後半、パンクやメタルといった同時代の流行と反比例するような形で、唯我独尊の境地を確立した超レアな存在であった。
そんな彼らを当時、国内唯一のプログレ専門誌のマーキーが頻繁に取り上げ、大絶賛していたし、それを受けてキング・レコードが全作品を国内発売するという快挙もあった。

それは自分史に照らしてみると、ルネッサンスなどに没頭していた最も多感な高校時代である。
当時の自分は、叙情派、クラシカル、耽美派、ロマンティズムという、The Enidに当てられたステロタイプな形容詞を総合して、Camelを軟弱にしたようなイメージを抱いていた。そういう謳い文句に惹かれて幻滅した苦い経験がいくつかあったからであろう。自分の知る範囲では、せいぜいが例えばフランスのPulserやドイツのNovalisクラスではないかと想像していたわけである。

実際に聴いたThe  Enidは全然違った。
最初に入手したのは、セカンドのAerie Fearie Nonsenseだが、これが1977年のオリジナル盤と、1983年に再レコーディングされたリメイク盤とはまったくの別物である。
私が聴いたのは、その当時、彼らと対立関係にあった英国EMIが嫌がらせに再発したオリジナル盤の方だった。そう、The Enid側が自主レーベルからの再発の為に、EMIに対して1stと2ndのマスターテープの譲渡を要求し、それをEMIは拒否、その結果、The Enidは最も人気の高い両作を完全再レコーディングしなければならなかったという経緯があった。しかも、EMIは何と最も魅力的な両作のオリジナル盤を再発したのだ。私が最初に手にしたのは、そのEMI再発盤の方だった。

話が長くなったが、The Enidのサウンドは、聴く前に目にした数々の形容詞をすべて帳消しにするものだった。つまり、完全に比類なき、唯一無比のオリジナルなものだったのだ。
豪華絢爛のロック・シンフォニー。
この一語に尽きる。
単純に言うと、これほど華やかなド派手な音楽とは思わなかった。とにかくゴージャスでカラフルなのだ。クラシックをほとんど知らなかった当時の私の耳にはクラシックそのものと聞こえたが、メンバーは計6名。ドラムとベース、それにギターとキーボードが二人ずつ、まあノーマルな編成と言っても良い。
この編成で何故、ここまでクラシックそのもののような音楽が可能なのか。

キーボードは、当時のアナログシンセサイザーが可能なダイナミックレンジの極限までフル稼働しているわけだが、それ以上に特筆すべきはツインギターオーケストレーションであろう。簡単に言うと、ブライアン・メイが二人居るようなもので左右のギター・オーケストレーションが立体的なハーモニーを形成するのだ。

そして極めつけがドラムだ。もう、これはプログレッシブ・ロックという方法論がなければ、あり得ないセミクラシック的形態だ。
ドラム主導ロック・シンフォニー。ここにThe Enidの独創性がある。このことを指摘するレビューに何度か出会ったことがあるが、私もプログレッシブ・ロックが生み出したイディオムが初めて彼らのロック・シンフォニーという新たな可能性を切り開いたのだと思う。

プログレ・ファンが好むクラシックと言えば、自分もそうだが、まずはロシアン・バーバリズムの系譜であろう。『禿げ山の一夜』と『展覧会の絵』のムソルグスキーは1世紀前に間違って生まれてしまったプログレッシャーとさえ思える。
一方、大英帝国も歴史的に豪華絢爛、ド派手な宮廷音楽の系譜がある。その象徴がエルガーの『威風堂々』だが、The Enidはその系譜を継承している。

彼らの三作目となる、1979年の『Touch Me』は、そんな比類なきド派手なロック・シンフォニーの究極である。当時、イエス、PFM、キャメル、ルネッサンス、UK辺りをプログレの正当系譜と見ていた自分にとって、The Enidはまったく文脈を異にする孤高の存在に思えた。
マーキーの山崎氏が、彼らの1stの印象を、「PFMを初めて聴いた時を遥かに上回る衝撃だった」と書いていたのを読んだことがあるが、至言である。
The  Enidは、プログレという記号に収まり切らない、とてつもなく独創的な音楽だった。

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