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No.66 Flame Dream / Supervision 1983(Swiss)

Flame Dream
1980年代を通して、ユーロピアン・ロックにイエスやジェネシスの幻影を求め続けた自分にとって、最高の「青い鳥」だったのが、スイスのフレイム・ドリームというバンドである。
他聞に漏れず、「スイスのイエス」というのが彼らの触れ込みだった。今にして思うと、彼らこそ個人的にはユーロ・ロックを象徴する奇跡の存在だった。
サード・アルバムの『Out in the Dark』は、スティーブ・ハケットのソロで知られるジョン・アコックをプロデューサーに迎えていて、メジャー級の完成度と風格を漂わせ、時の運さえ得れば、RushやSagaのような例外的なトリックスターとして、インターナショナルな成功も夢ではなかった。
そんなポジションまで「出世」したというのに、なぜか今日に至るまで正規での再発は実現していない。
少し遅れて日本でも輸入レコード店の店頭に彼らのアルバムは置かれていたので、手に取り、耳にしたリスナーは少なくないはずだが、ネット上でも彼らに言及するコメントやレビューは今でも少ない。
自分のように当時、このバンドに入れ込んだファンも多少はいたはずなのにどうも解せない。

1983年、マーキー誌上で彼らの最高傑作のセカンド、Elementsが紹介されたのと同時に、都内輸入レコード店にはその後のOut in the Dark以降のアルバムがノーマルプライスで売られていた。最初の2枚はVertigoレーベルの配給だったせいか、多少のプレミアムを付けて中古市場に出回った。
B.Brufordを意識したチューニングのドラム、C.Squireのコピーに等しいリッケン、ピック弾きのベース、そしてR.Wakemanから指癖を排して、総合的オーケストレーションでは格上と思わせるほどの圧巻のキーボードと、なるほど、典型的なイエス・タイプだが、妙にP.Gabrielを意識してか、鼻にかかったハイトーン・ヴォーカルがリスナーの好悪を分けた。
また、同国には先行してIslandとCircusというユーロ・ロック史上指折りの大物がいて、それらと比較すると若干、見劣りするというのが前評判だった。その二つと比べると、確かにこのフレイム・ドリームは正統派のシンフォニック・ロックということになるが、そのクオリティーの高さは甲乙付けがたい最高クラス、他国のビッグネーム、例えば、イタリアのPFMやフランスのアトールを凌ぐほどの水準にあり、個人的にはゴブリンと互角の勝負だと思っていた。

フレイム・ドリームというバンドは、単にイエスやジェネシスに触発されてバンドを組んで、その影響下にある音楽を演奏したという世代ではない。元々がジャズやクラシックなどの正式教育を受け、ヒッピー文化の中で雑多なキャリアを積んだ素質も経験も豊富な人材が同年代のイエスやジェネシスにヒントを得て、同じような形態の音楽をやってみせた、という感じなのだ。 だからイエスやジェネシスにきわめて酷似しながらも、どこか異質な要素が混在している。
それを独自の魅力ととらえるか、余計なノイズととらえるかは人それぞれということになる。

個人的には彼らのクオリティーは群を抜いていると思っていたし、今、改めて聴き直してもそう思う。
プログレ不毛の1980年代、正攻法を貫いた彼らのサウンドは他を圧倒していた。彼らに匹敵する総合的演奏力を備えていたのは、ほぼ10年後のSpock's Beardあたりの登場を待たなければならなかった。

同時に彼らはあっぱれなほどに徹底した職人、芸人根性の持ち主でもあった。
国際メジャーに挑戦していた時期の4枚目となる『Supervision』ではすでに見栄も外聞もない、露骨なパロディーをやってのけている。
例えば、UKの「Nothing to Loose」と「The Only Thing She Needs」の模倣は、笑ってしまうほどの徹底ぶりだし、Larks' Tongues in Aspic Part 2の有名フレーズも遠慮容赦なく借用している。

この、たった2年前、Elementsという名作で、あれほど孤高のサウンドスカルプチュアを実現した、それほどの実力者が何故、ここまでプライドを捨てた模倣をやらねばならぬのか、理解に苦しむところだが、それを現実として受け容れてしまえば、ファンとしてはこれはこれで別物、存分に楽しめる逸品なのだ。



近年、この当時のテレビ番組への出演ヴィデオがYouTubeにアップされた。
想像以上に若々しいフレイム・ドリームの面々の姿を拝むことができる。当然ながら、ちょっとクールなロック・ミュージシャン風のルックスだが、R.Wakeman真っ青のバカテクを誇ったリーダー格のRoland Ruckstihlがこれほどノーマルな若者だったとは・・・
改めて当たり前の現実を思い知った次第だ。



それでも、何でもフレイム・ドリーム、彼らが私にとって最高峰の存在であることに変わりはない。