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No.50 National Health / Of Queues and Cures 1978

ナショナル・ヘルスは、Brufordで音楽的主導権を発揮したキーボード奏者のディヴ・スチュワートがその直前まで組んでいたバンドである。プログレッシブ・ロック史上のサブカテゴリとしては、一般に「ジャズ・ロック」と分類されるが、「カンタベリー」というローカルな形容詞も必ず付けられる。
元々、ビル・ブラッフォード自身もUKに参加する前のセッション・ドラマー時代、活動のベースメントの一つとしていた。彼にとってみれば、「作曲の師匠」であるディヴの率いる主力バンドなのだ。参加していて当然だろう。

私がこのレコードを地方都市のあるレコード店で買ったのは、高校一年の初夏だ。1984年である。その前月にBrufordのOne of a Kindの国内ポリドール盤を買い、続け様にヘルスの代表作と言われるセカンドの方も入手した。当時、キングレコードからカンタベリー・ジャズ・ロックと称するシリーズで国内盤が出ていたからである。

いわねあつみ氏と名乗る人物によるライナーノーツにはいろいろなことが書いてあったが、多分最初から私は気に入ったのだと思う。Brufordのフュージョン然とした軽い音に比べて、こちらはだいぶ重厚で奥行きのある音に感じられた。サウンド面での要は何と言ってもドラムの迫力だろう。ブラッフォードに代わり参加したのはハットフィールズの盟友、ピップ・パイルだが、臨場感あふれるタイトなドラミングは、Rushのニール・パートを思わすほどの存在感で最高だと思った。
主役のディヴは、オルガンとエレピを基本としてシンセのたぐいをほとんど使用していないので、少し古い感じもしたが、ピップの抜群にタイトなドラムを軸にしてシンフォニックと言ってもいいほど流麗、いかにもプログレらしい展開を見せる。
メンツは、ハットフィールズのディヴ、ピップに渋めギターのフィル・ミラーという3人に加わっているのが、Henry Cowを脱退した名ベーシストのジョン・グリーブス。当時はまだ彼がどんな大物かは認識していなかった。

興味深いのはメンバー一人一人がほぼ一曲ずつ曲を提供していて、それぞれの音楽的個性を端的に反映させているということだった。
リーダーのディヴだけ少し多めの楽曲提供だが、いかにもプログレというイメージは彼の資質、指向性によるところが大きい(と言っても軽薄ではない)。
フィルはもちろん、英国臭い古き良きジャズ・ロックだが、ここでもピップの切れ味鋭いドラムが輝いている。ジョンの曲はやはりHenry Cowの最もアイロニカルと云うかフランス的風刺性を担っていた人物だけあって、簡単に言うと文学的世界。Henry Cowの盟友、女性二人のバスーンとチェロもそういう感じだ。
そして、ニール・パートも真っ青というど迫力ドラムを全編で披露したピップ作曲のBinocularsはどんな曲かと云うと、これが堪らない。まさにロバート・ワイアットのDNAを引き継ぎ、カンタベリー魂そのものという感じの長編ヴォーカルチューンなのだ。Caravanのジミー・ハスティングスによるフルートの客演ソロも申し分なし。レコード自体に明確なクレジットがなく、当時はてっきりピップ自身が歌っているのかと思っていたが、ワイアット直系、この英国紳士らしい典雅な歌声は実はジョン・グリーヴスのほうだった。

1978年、流行から完全に見放されたショウビスの片隅で4つの才能によって作られた秘蔵の名作。
これぞカンタベリー、これぞプログレッシブ。そんな味わい深い逸品である。