No.43 【イタリアン・ロックの輝き】Banco『春の唄』(1979年)から

イタリアン・ロックで今でもよく聴くのは、何かと言えば、決して多くはないのだが、やはりバンコということになりそうだ。

日本において、バンコは最も人気の高いイタリアン・ロックの代表的アーティストである。
それに関しては異論はないだろう。
日本人好みかもしれないが、私は昔からよく思っていた。
1970年代当時、もしEL&Pが好きな人がリアルタイムでバンコを聴いたら、きっと狂喜したに違いないと。
なぜなら、EL&Pキース・エマーソンという天才が示した新たなロックの可能性、端的にはクラシックとロックの融合という方向性を、ほぼ並行して何と本場イタリア、ローマの若者たちが、それをはるかに上回る純度と完成度の音楽世界を築き上げていた、という事実に心の底から衝撃を受けるであろうと。
そう、ダブルキーボードを擁したバンコの構築美は、ローマ教会建築にもオーバーラップしつつ、ある面ではEL&P以上にEL&P的なものであった。

そのバンコは、1990年代に入ってファーストとセカンド『ダーウィン!』という名作中の名作を、最新機材を駆使してみずからリメイクして我々ファンに特別な希望を与えてくれて以来、ずっと堅実なライブ活動を続けていた。
今年には再来日公演も予定していたが、何とこの2月にリードヴォーカルのフランチェスコ・ディ・ジャコモ が交通事故で還らぬ人となり、公演自体が中止となってしまった。
しかもその悲報がほぼリアルタイムで我々の元に届き、葬儀のニュース映像さえYouTubeで閲覧できるという、本当に信じ難い現実に絶句するより他ない。

とにかく、バンコは私にとってもずっと特別な存在であった。
そして、個人的な見解と思いでは、1970年代最後の名作『春の唄(Canto di Primavera)』という一枚が彼等の到達した最高峰なのである。
気を衒った奇論のように思えるであろうが、過去四半世紀、ずっとやはりこのアルバムが特別であり続けた。

その理由は、まず第一にはやはりドラムだ。
ピエロルイジ・ルカリエリというドラマーは、初期三部作ではどちらかと言うと線の細さが弱点に感じられることがなくもなかったが、『最後の晩餐』以降、俄然その本領、持ち味を発揮する。
センシティブなリズムワークが音楽と見事にフィットするようになって、その頂点が『春の唄』だったのではないかと。

フランチェスコのヴォーカルは、歌のアルバムであるから当然のように、全編でまばゆい輝きを放っているが、究極は「虚無」と題する、この曲だろう。


そして個人的究極は、何と言ってもこれなのだ。
オープニングとエンディングで繰り返されるテーマ。
バックで繊細なリズムを刻むドラム。
それを奏でるシンフォニックなキーボード重奏。
プログレ業界では評判の悪いはずのホーンセクションが耳触りに感じないのも不思議なアレンジの妙と言える。

これぞバンコの美学。
そしてプログレッシブ・ロックそのものだ。