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No.38 It Bites/Eat Me In St. Louis

Album Review British
イット・バイツの「本質」に、遅ればせながら気づいて熱狂した私は、彼等が残した3枚のアルバムを貪り聴いた。

まずは結果としては遺作となってしまったサード・アルバムだ。
主要な曲はライブ・アルバム『Thankyou & Goodnight』に収録されていて、大のお気に入りになっていたので、残りの曲を改めて聴き直して、じっくり味わった。

思えば、このアルバムは、イエスの別プロジェクトの「アンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ」と並行して制作され、フランシスがバックコーラスだが、レコーディングに参加していることもあり、姉妹作的な扱いがされた。新宿のとある場所でジェネシスファンクラブの女性から発売前に聴かせてもらった。
オープニング曲の「シスター・サラ」の、期待を裏切るストレートなノリに「いやにロックっぽいな」などと言い合っていたのを思い出す。
イット・バイツは、最初から女性ファンの割合が高かったはずだが、その人も不服そうに「ポップなのだが、アメリカで大ヒットするようなタイプの音じゃないのよね」とおっしゃっていた。

このアルバムは1980年代後半以降、クイーンのアルバムを手掛けたMACKを起用しているが、確かにその頃のクイーンに似たような音だ。クイーンも後半になると、アイドル的なイメージは皆無となり、どこか玄人受けする男性的な職人集団へと様変わりしていった。その結果、アメリカでのセールスは今一つ伸びない代わりに、イギリスでは出せば必ずNo.1という最強の国民バンドになった。

その後、1990年代、「最もイギリスらしいバンド」という称号は、マリリオン辺りに取られてしまった感がしなくもないが、イット・バイツももう少し続けられたら、間違いなくそのようなポジションを獲得したはずだ。

今、聴き直しても、脂の乗り切った勢いがひしひしと伝わってくる。
「ピープル・オブ・アメリカ」や「ヴァンパイア」など、多少雑な作りの捨て曲も、クイーン張りのコーラスワークをはじめ、MACKの的確なサポートもあってか、奥行きのある分厚いサウンドのおかげで、申し分ない見事な仕上がりだ。
ハイライトは、やはり「アイス・メルツ・イントゥー・ウォーター」と「リヴィング・ウィズアウト・ユー」といった極上バラードで炸裂するフランシスの歌心か。

このアルバムの勢いは、やはり音楽的主導権をめぐるフランシス・ダナリーとジョン・べックの激しい攻防戦がもたらしたものだと思う。
前作であれほど受けたプログレ的意匠を排して、ここまでハード・ロック路線に走ったのは、フランシスの意向と思われるが、そこにかなり強引にキーボードを重ねるジョン・ベックのミュージシャン・エゴも相当に激しいものがある。

そんなバンド内の緊張した人間関係も1980年代には似つかわしくない。
とにかく若くて瑞々しい、思い出の名作である。

1989年リリース。