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No.37 It Bites/Thankyou & Goodnight

イット・バイツの『Once Around the World』が新旧プログレファンの間で話題になっていた大学1年の頃、自分の手元にもサークル仲間からカセットテープが回ってきて、さっそく耳を傾けてみた。
最初は分厚いキーボードの洪水、ホールズワース的な早弾きソロ、立て乗りの変拍子を織り交ぜた曲展開など、ジェネシスをはじめとする1970年代プログレからの影響を伺わせる特徴的要素を確認するだけで素通りしてしまった。
ジェネシスとの共通性よりも、デジタルシンセの音質や立て乗りのドラムなどの相違性ばかりに耳に残ったせいであろう。
当時の私はクイーンズライクの『Operation:Mindcrime』にハマっていたのだ。

イット・バイツの真価に自分が気付いたのは、それから来日公演(何人かの知り合いが足を運び、絶賛していた)を挟んで彼等が解散した後のことであった。
大して期待もせず何気なくレンタルCDショップで借りたライブアルバム『Thankyou & Goodnight』だった。
このライブ自体、バンドが解散してしまったので、契約上の理由から仕方なくテレビ番組用に収録した音源をオフィシャル版としてリリースした代物で、決して万全を期して企画されたわけではない。

選曲は、我が国のプログレファンに絶大な支持を受けたセカンド『Once Around the World』からはわずか2曲に留まり、大曲は割愛されていた。その代わりにほとんど聴き込んでいなかったファーストとサードの曲が大半を占める。

そして気付いた。
確かカーステレオで流していた時に「あっ」と腑に落ちたのだ。
具体的に言うと、2曲目の「All in Red」の、さりげない泣きのメロディーラインだった。

このバンドの本領は、アレンジではない。様式美ではない、と。
つまりプログレ的な側面ではないのである。

本当の魅力はメロディーの方なのだ。
そのデリケートな味わいなのだ。
要するにフランシス・ダナリーという人の「歌」に尽きる。それは、ゲイブリエルとも、フィルコリンズとも異なる。ジェネシスとの共通性はほとんどない。

こうなると、彼が雑誌のインタビューなどで自分たちをプログレと看做されることに強い拒絶反応を示しているのも理解できるような気がした。
そして、プログレと云うよりもブリティッシュロックというイメージの方を強く感じるようになった。
例えば、キンクスのレイ・デイヴィスと近い感覚だ。

そう云えば、マーキー誌の山崎さんがイット・バイツを絶賛していた。
当初は意外な感じもしたが、イタリアンロックのラブロックやカンタウトーレを称揚していた人物である。
なるほど、と納得したものだ。

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