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No.3 Il Volo/Il Calore Umano

何でもあり。バーリトゥードYouTubeの世界では、何があっても驚かない。

そんな多幸症時代に突入して久しい今日だが、往年のイタリアン・ロック・ファンとして、これだけは心からサプライズを叫ばずにはおられない。

それが、今なおイタリアン・ロック史上に燦然と輝く、あの幻のスーパー・グループ、イルヴォーロのプロモーション映像である。

何しろ、イタリアン・ロック全盛期の1974年に結成され、ほんの一年足らずの短期間、スタジオにおけるサウンドプロダクションを自己表現の場として、理想の完成形をめざしたレコーディングユニットである。
遺された作品は2枚の、しかも恐ろしく収録時間の短いアルバムのみ。

当時流行し始めていたクロスオーバー、フュージョンと、イタリアならではの歌心、同時代の日本ではニューミュージックに当たるカンタウトーレのエッセンスを融合した、しなやかなサウンドは、裾野の広い往年のイタリアン・ロックの中でも類型が見当たらない。
そんな抜群のオリジナリティを誇り、かつて日本のユーロロック愛好家の間で圧倒的な支持を得ていた存在。

そのイルヴォーロの、現役時代の映像を目にすることができるとは、本当に少し前まで夢に見ることさえなかったことだ。



テレビ音楽番組用に撮られたものであろう。
映像そのものは、プアなセットのスタジオで飾り気のない若者6人がそれぞれの楽器を持たされて、アルバム録音のサウンドをバックに「演奏している振り」をしているだけである。

1974年の映像だから、仕方がないとは言え、良くも悪くも「素」だ。
曲は確かファーストアルバムの3曲目。
もう30年以上前から、個人的にはお馴染み、と言うか、数えきれないほど聴いたもの。
思い出が沁み込みすぎていて、客観的に鑑賞する対象ではない。

そんなお馴染みの音楽と、初めて目にする古ぼけた映像のギャップ。
メンバーは主役格のアルベルトラディウス他、20代後半から30歳ぐらいだろうか。
全体に思っている以上に若い。
特にガブリエーレ・ロレンツォらしきは少年の面影さえある。

イタリア人らしいイケメンは、ドラムのジャンニ・ダラリオだが、笑顔を絶やすことなくオーバーアクションを決める姿からは、あの緻密でダイナミックなドラミングは想像できない。

ピアノに向かい合うヴィンチ・テンペラも完全に「弾いている振り」で、まったく曲と合っていない。
あの独特のクラヴィネットサウンドを弾いている人には見えない。

一言で言えば、イルヴォーロとは思えない映像である。
そうか、イルヴォーロはこんな昔の音楽だったのかと、今さら当たり前のことを再認識するばかりだ。

もちろん、そうだとしても自分にとって彼等のサウンドへ封印された尊き思い出が薄らぐわけではないのだが。