No.2 Il Volo/IL VOLO 1974

ある時期、熱中してしまったため、その思い入れがあまりにも深すぎてなかなか聴くことができなくなってしまった、というアルバムは少なくない。特に十代後半の内面的な人格形成期に深くのめり込んだ音楽はそういう傾向が強い。私にとってイル・ヴォーロはその代表的な一枚である。

イル・ヴォーロはフォルムラ・トレのアルベルト・ラディウス(g,vo)とガブリエーレ・ロレンツォ(kb,b)の二人が国内セッションプレイヤーを集めて結成したスーパー・グループで、2枚のアルバムを続け様にレコーディングしただけで解散してしまったという幻の存在。日本では1980年代初頭、キングレコードのユーロ・ロック・コレクションで目玉アイテムの一つとして紹介された。

フォルムラ・トレはEL&Pスタイルのキーボードトリオであるが、カンタウトーレと呼ばれるイタリアのフォーク、日本で言えばニューミュージックの走りで1970年代前半、イタリア国内でアイドル的な人気を集めたとも言う。基本的には歌物、ラブソングで、ジミヘンの影響を受けた重めのギターとキーボードを導入してやや凝った造りを売りにしていた。フォーク志向を強めたところで解散、ダブルギター、ダブルキーボードという重厚な編成を擁したイル・ヴォーロに移行する。

その結果、イタリアン・ロックの代表格と見なされるが、音楽的には必ずしも典型的なプログレとは言えない。形式や完成度よりも過剰なほどエモーショナルで劇的な高揚感を優先したイタリアン・プログレとは一線を画して、どちらかと言えば当時のクロスオーヴァーフュージョンに近い感覚のクールでスマートな世界を指向したものと推測される。今聴けば、特にやたら音数の多いリズムセクションなどいかにもプログレ然としているが、一方、全体に曲は短くコンパクト、暑苦しいまでの情緒的な歌表現よりも、各楽器間のハーモニーで徐々に雰囲気を盛り上げていく手法など、なかなかしたたかで知性派らしい側面を覗かせる。

その後、時代はイル・ヴォーロが見せた未来志向とは違う形に推移していったせいか、やはり1970年代中頃の音なのだが、当時としては先鋭的な技を随所で発揮していて、これがまた他に例のないノスタルジーとなっている。

しかし当初、PFMタイプの正当プログレを期待したので幻滅したものである。やがて、「これはスゴい!」と認識が変わって最も熱中したのは大学に入学する前後二年余りと思う。やはり同時期、カンタウトーレが脚光を浴びていて、いかにもラテンな情熱と悲哀に溢れたフォークに関心を持つようになった。イル・ヴォーロは歌物の味わい深さと、プログレ道で鍛え上げられたアレンジ力、音楽的奥行きをあわせ持つ特異な存在であった。

全体を貫くのはとにかく動きの激しいドラムとベース、そして今では懐かしいばかりのクラヴィネット。そこにアナログシンセの絶妙なバッキングと、ちょっと線の細い泣きのギターが絡む。これだけ音を重ねて、表現過多にならない節度ある全体調和はやはり見事で一種の成熟を感じさせる。

フォルムラ・トレ解散直後、1975年リリースのファーストアルバムはまだまだ歌の比重が大きい。ほとんどがラディウスのヴォーカルで、5分以内の短めの曲が八つ、素っ気なく並んでいるだけ、という構成。トレを継承する歌はもちろん強いが、演奏面の拡充は発展途上ながら、ロックでもフォークでもフュージョンでもない、すでに前例なき独創的な世界を築いている。

二十歳前の純情な自分は時間的にも空間的にも日常から隔絶した、このイル・ヴォーロの世界に惑溺したものである。
(2009/12)

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