No.83 Spock's Beard / The Light 1995

1990年代。
気がつくと、プログレッシブ・ロックという概念は変わっていた。
この国では変わり者のおたくマニアと見なされていた愛好家が
実は世界中に広がっているという事実が判明した。
インターネットの恩恵の一つだ。
やがて昔の時代遅れな音楽、という先入観はいつの間にか払いのけられ、
世界中から勢いのあるニューカマーが登場した。

それらの群像の頂点に居たのが、
一方がスウェーデンのThe Flower Kings、そしてもう一方が米国のSpock's Beard。
それが当時の自分の認識だった。
その後、両バンドのリーダー格であるRoine StoltとNeal Morseが、
Transatlanticという企画バンドで協業することになるので、
現在はこの二つは親戚関係だと思われているが、昔はそうは見られていなかった。

The Flower Kingsは、正確な意味でニューカマーとは言えないが、
Spock's Beardは1995年に『The Light』がリリースされるまでメンバーは無名だった。
私がこれを聴いたのは、Marquee誌の運営するWorld Disqueの通信販売である。

最初の印象は、誠に「不気味な作品」だというものだった。
まず、冒頭のElton John風の弾き語り。
こういう芸は、普通は新人がやれるものではない、
或いはやってはいけないものであったはずだ。
名のある大物だけに許された禁じ手のような流儀だと当時の私はそう感じた。
しかし、それにしてはあまりにこなれた歌いぶり。
海千山千、よほどのキャリアと自信がなければ出来る芸当ではない。
只者ではない。
すぐに察知するが、まさかそれ以降、20年以上にわたってプログレシーンの最前線で、
活躍するほどの存在になってしまうとは想像さえしていなかった。
事実、米国のアンダーグラウンドシーンには、
彼に類似した没個性的キャラの無名なヴェテランは、数え切れないほど棲息している。
ただ、その中でもNeal Morseの才能はあまりに傑出していた。

正直、当初は17分あまりのThe Lightのめまぐるしい展開についていくのがやっとだった。
本当は、その後のGo The Way You Goのほうがシンプルで判りやすい楽曲だし、
最後のOn The Edgeに至っては極上テクニックが炸裂するRevolverのパロディとさえ言える。
しかし、その真価を汲み取るには少し時間を要した。
それほど、ここにすべてを賭けたかのようなThe Lightの一撃が圧倒的だった。

改めて聴きなおしても、デビュー作にして完成している。完成しすぎている。
ただし、新人らしからぬ不気味さは、恐らくNeal自身、多少なりとも自覚していたとは思う。
音楽の端々からは自意識のゆらぎのようなものを感じる。
それが、次作以降にはない、本作の独特の味わいにもなっている。